中有における業と業通

阿毘達磨倶舎論第九巻の原文 ：此の中に有る身は、同類相見ゆ。若し極めて清浄なる天眼を修得せん者は、亦能く見ることを得ん。諸の生得眼は、皆観ることを能わず。極めて細微なるが故なり。余の師説く、天の中有の眼は、具足して能く五趣の中有を見る。人・鬼・傍生・地獄の中有は、四・三・二・一を見る。謂わく、自ら下を除き上を除く。一切の通の中に業通最も疾し。虚を陵ぎ自在なり。是を通の義と謂う。通は業に由り得るを、業通と名づく。此の通の勢用速かなるが故に、疾しと名づく。中有は最も疾しき業通を得ること具足せり。上は世尊に至るも、能く遮抑すること無し。業の勢力、最も強盛なるが故に。 

釈：此の段は中有の身が極めて微細で見難く、同類のみが相見る他、極めて清浄なる天眼を具えた衆生のみが能く見得ることを説く。天人の天眼は他の五道衆生の中有を見るが、天眼なき衆生は見ることを得ず。故に人が死んで中有に在りても、世俗の神通では見えず、或る者が推量して「この者は往生した」などと説くは、皆妄説なり。此れ程清浄なる天眼を具える者無く、中有の身を見ることも、ましてや死者の極楽往生を見ることは叶わぬ。

中有の存在においては業力最も強盛にして、業通最も大なり。神通は業通に敵せず、業力の前には神通用を為さず、諸仏と雖も衆生の業通と業力を改むるを得ず。例へば大目健連は神通広大無辺なりしが、死時に於いて肉団子と為されるが如し。中有の業力最も大なるに、仏も如何とも為し難く、死者の意識は更に為す術無し。意識は微塵も方法無し。而して此の業力・業通は即ち意根に相応するもの、意根の無明或いは智慧力なり。故に修行が意根に至らざれば、意根を改めずんば、一生の修業は泡沫と化す。意識仮りに存在すれども、毫も意根の業力を制する能わず。意識を以て証果明心すと説く者ども、此時如何なる解釈を為すべきか。其の口は牆壁に掛かるべきでは無きや。