瑜伽師地論 第三十四巻（八十四）

問う。何の因縁をもって、この三摩地を金剛喩と名づくや。答えて曰く、例えば金剛は、他の一切の摩尼・真珠・琉璃・螺貝・璧玉・珊瑚等の諸珍宝に比べて、最も堅固なり。能く他の宝物を穿ち壊すことができ、しかも他の宝物によって穿たれ壊されることなし。かくの如く、この三摩地は、諸の有学の三摩地の中において、最上・最勝にして最も堅固なり。能く一切の煩悩を壊し、上位の煩悩をもってさえ覆い伏せること能わず。故にこの三摩地を金剛喩と名づく。

釈す。問う：何の故をもってこの三摩地は金剛を喩えとする名称を用いるか。答えて曰く、金剛が他の一切の宝玉を穿破するも自らは破れず、一切の有学三摩地中最も堅固にして煩悩を断ずるが故なり。初果より第三果に至るまで皆な有学の位なり。未だ煩悩の漏れを断じ尽くさず、修すべき法残るが故なり。煩悩断尽せしむるは第四果阿羅漢に至りて、もはや修学すべき法なく、解脱の理を究め尽くし、三界の諸有より解脱せり。故に無学と称し、第三果以前とは異なる。第三果の証する三摩地は初果・二果を超え、最堅固なる金剛三摩地と名づく。