谷間で大声を叫ぶ時、その声は本質境でありましょう。本質境が空気や岩壁に触れると、阻害を受けて伝わる音は変質します。四大の微粒子が変化するためであります。我々が再び反響音を聞く時、その音は比較的虚ろで不実なものに感じられ、遥かな天際に在るかの如く、人の叫び声とは大きく異なります。人の声は真実であり、反響音は叫び声に基づいて後に生じるもので、第二の月の如きものであります。
反響音は声が阻害に遭って跳ね返る音に似て、卓球のボールがラケットに跳ね返る様と相通じます。跳ね返るボールの速度は受ける抵抗の大小によって定まります。谷間の反響音の大小と音質は、空気の対流の強弱と岩壁の抵抗の大小に依ります。谷がより広漠であるほど、反響音はより虚偽に満ち、より虚ろで、より不実となります。谷間の反響音を真とも偽とも言い難く、真偽混在の性質を帯びております。本質境の質を有するが故であります。
第二の月は、直接天上の真月たる第一の月より生じます。第一の月無くして第二の月は存在せず、第二の月を真とも偽とも断じ得ません。第二の月は真偽混在の性質を含み、第一の月の本質境における質を多分に帯びているが故に、より真実らしく見えます。然りと雖も、智慧ある者は第二の月を捏ね出しても、これを真月たる第一の月と見做してはなりません。同理をもって、谷間の反響音を人の真実の声と認めることなく、ただ反響音を辿って人の真実の声を求め、遂には人を見出すべきであります。これもまた禅を参究する秘訣であります。
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