意根の智慧と意根の思惟

意根そのものには言語文字や音声の相が存在せず、言語文字を用いて思惟することもなく、心を働かせる際にも音声を発しません。従いまして、意根の思量作用と運行の様相は極めて微細で観察し難く、定力が不足して心が粗雑である場合には捉えることが困難です。そのため意根に対する誤解は避け難い状況にあります。

意識は時に智慧を具え、時に智慧を欠きます。意根も同様に時に智慧を具え、時に智慧を欠きます。意識の智慧が適切に発揮されれば、意根の了別と決択を補助することが可能です。しかし意根自体が智慧を具えている場合には、意識の智慧による補助を必要とせず、あるいは意識による思惟分析の補助を要さず、単に了別を助けるだけで十分です。意根が法の粗相と細相を了別すれば、直ちに如何に対処すべきかを知ることができます。意根自体に智慧が具わる時はこのような状態ですが、意根に智慧が欠ける場合には、意識が了別を補助するだけでなく、思惟・分析・推理・判断をも補助し、その後意根は意識の判断に基づいて思量し、自らの判断を下します。ただし必ずしも意識の判断と一致するとは限らず、その決択は意識の予想を超える場合があります。

意識が自心を反観するのは証自証分であり、意識が観察する対象が意根の心念である場合は自証分です。しかし意識に智慧が備わっていない場合、自らの心念か意根の心念かを判別できず、全てを意識自身の心念と見做してしまうことがあります。そのため多くの人が「これは明らかに意識の機能作用では無いか、どうして意根の機能作用と言えるのか」と疑問を抱きます。実はこれは自らの意識が意識と意根の差異と境界を智慧をもって弁別できず、道種智を具えていないためです。意識と意根の作用を区別することは、誠に極めて困難なことなのです。