原文:須菩提。即座より起ちて、仏足を頂礼し、仏に白して言く、我が劫よりこのかた、心に得ること無碍なり。自ら受生すること恒河沙の如きを憶う。初め母胎に在りし時、即ち空寂なることを知る。是の如く乃至十方も空となる。また衆生をして空性を証得せしむ。如来の発する性覚の真空に蒙り、空性円明にして、阿羅漢を得たり。頓に如来の宝明空海に入り、仏の知見と同じくし、印して無学と成す。解脱性空、我は無上と為す。仏の円通を問うに、我の証する所の如く、諸相は非に入り、非の尽くる所、法を旋して無に帰す。これ第一と為す。
釈:須菩提は座より起ち、仏足を頂礼し、仏に申し上げた。私は無始劫よりこのかた、心に何らの障りもなく一切の法を達観して参りました。自ら無始劫より転生した回数が恒河の砂の如き多きことを覚えております。今世母胎に在りし初めより、世間が空寂なることを知り、是の如く十方世界も皆空寂にして一法も存在せざることを悟り、また衆生を教化して諸法の空性を証得せしめて参りました。
如来の教導と加護に預かり、自性覚体の真空を悟得いたしました。この空性が次第に円明となるに及び、大阿羅漢となり、忽ち如来の宝明空海に悟入し、仏の知見と一致するに至り、四果無学の位を仏より印可されました。心の解脱功徳と空性の境地におきまして、私は仏弟子中第一でございます。仏が円通法門をお尋ねになりましたが、私の証得する所によれば、一切の有相は非有に転じて空じ、能く空ずる心と所空の法も共に尽き果て、元来の有法は反って皆無に帰します。これを以て第一の円通法門と致します。
須菩提は無始劫より心に障りなく、六神通を具足し、宿命通をも備えております。故に母胎に在りし時より万法空なることを知っておりました。この知は必ずや意根の知であり、無始劫以前に意根が空を証得していたため、如何なる境遇・身分にあろうとも須菩提は常に空を了知しておりました。母胎において意識が生起した後も、何らの遮りもなく意識もまた万法空なることを知り、意根が先に知り、意識が後に知るという真実究竟の知を完成させたのであります。須菩提の悟った空は大小乗を包括し、四果阿羅漢を証得すると共に如来の宝明空海を頓悟し、仏の知見と同一となりました。ここに須菩提が少なくとも八地の菩薩であり、二大阿僧祇劫以上の修行を証得したことが窺われます。実際、仏典によれば須菩提は仏の再来者であり、十大弟子は皆仏身が阿羅漢相を示現し、釈尊と共に娑婆世界の衆生を済度されたのであります。
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