(一)原文:如是我聞。一時、仏は王舎城迦蘭陀竹園に住したまえり。その時、尊者舎利弗と尊者摩訶拘絺羅は耆闍崛山に在りき。時に尊者舎利弗は晡時に禅より覚め、尊者摩訶拘絺羅のもとに詣で、共に問訊慶慰し終えて、一側に坐し、尊者摩訶拘絺羅に語りて言う「問いたきことあり。いささか閑暇あらば答え賜わらんや」と。尊者摩訶拘絺羅、尊者舎利弗に語りて言う「仁者問え。知る者は答えん」と。尊者舎利弗、尊者摩訶拘絺羅に問う「いかに尊者摩訶拘絺羅、老いありや」と。答えて言う「あり」と。
釈:尊者舎利弗がある日の午後、禅定より起き上がり、尊者摩訶拘絺羅のもとに赴き、挨拶を交わした後、片側に座して摩訶拘絺羅に申し上げた「お尋ねしたいことがございますが、説法の御都合がよろしければお答えいただけますでしょうか」。摩訶拘絺羅は「尊者、どうぞお尋ねください。知る限りはお答えいたします」と申された。舎利弗が拘絺羅に問う「尊者はどうお考えですか、世に老いという現象は存在するのでしょうか」。拘絺羅は「存在します」と答えられた。
原文:尊者舎利弗また問う「死ありや」と。答えて言う「あり」と。また問う「いかに、老死は自ら作るか。他により作るか。自他共に作るか。あるいは非自非他、無因に作るか」と。答えて言う「尊者舎利弗、老死は自ら作るものにあらず。他により作るものにあらず。自他共に作るものにあらず。また非自他に作るものにもあらず。無因に作るものにあらず。しかれども彼の生縁によりて老死あり」と。
釈:舎利弗がさらに問う「世に死という現象は存在するのでしょうか」。拘絺羅は「存在します」と答えられた。さらに問う「いかがお考えですか、老死という現象は自然に存在するものですか、他縁によって造作されるものですか、あるいは自然と他縁の共同作用によるものですか、あるいは自然でも他縁でもなく、何の因縁もなく現れるものですか」。拘絺羅は答えられた「老死は自然に存在するものではなく、他縁によって造作されるものでもなく、自然と他縁の和合によるものでもありません。しかしながら自然と他縁の和合でないわけでもなく、無縁に生じるものでもありません。ただ生という縁があるが故に、老死が相随って生じるのです」。
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