瑜伽師地論第十巻（十二因縁）

（三十四）原文 ：問。已に一切の支を説く。更に互いに縁と為すに非ず。何故に建立する。名色と識と互いに縁と為すや。答。識は現法中に於いて、名色を縁と為して用いるが故に。名色は復た後法中に於いて、識を縁と為して用いるが故に。所以は何ん。母胎中に於いて、相続する時有るを以て、互いに縁と為すと説くが故に。識を縁と為すに由り、母胎中に於ける諸の精血の色、名の摂受する所と和合共に羯羅藍性を成ず。即ち此の名色を縁と為し、復た彼の識を此に於いて住するを得しむ。 

釈：問：既に十二支を説き終え、各支分は全て互いに縁となるわけではないのに、何故名色と識が互いに縁となると説くのですか。答：六識は現存する法において、名色を縁として初めて生起し活動します。名色はまた後世に現れる法において、六識を縁として初めて生起し存在します。何故そう言うのでしょうか。母胎中で名色が継続的に成長した後、六識が名色の上に生起するため、名色と六識は互いに縁となります。前世の六識を縁として、名色は母胎中で精血から成る受精卵の色（物質）と第七識の名（精神）に摂受され、共に羯羅藍（受精卵）の性質を形成します。再びこの名色を縁として、名色が成長した後、六識は名色の上に安住することになります。 

逆因縁法において、阿頼耶識と名色もまた互いに縁となります。名色は阿頼耶識を縁として母胎中に安住し、阿頼耶識は名色を縁として世間法上の機能作用を顕現します。この二者が欠けると、世間法は存在しなくなります。 

原文 ：問。何故に菩薩が黒品を観ずる時、唯だ識支に至りて、其の意転た還る。余の支に至らざるや。答。此の二支、更に互いに縁と為すが故に。識が名色を縁とする如く、斯くの如く名色も亦識を縁とす。是の故に観心識に至りて転還す。余の支中に於いて、此の如き有ること無し。転還の道理。此の一処に於いて、更に互いに縁と為す道理を顕示す。故に転還と名づく。還滅品中に於いて、名色は後の有る識の還滅の因に非ず。此の因縁に由り復た過ぎて観察す。 

釈：問：何故菩薩方が染汚流転の生死門を観行する際、識支まで観じた後、それ以上前に進まずに心が戻ってしまうのでしょうか。答：識支と名色支が互いに縁となる関係にあるためです。阿頼耶識が名色を縁として世俗的作用を顕現し、同様に名色も阿頼耶識を縁として生起します。故に観行心が阿頼耶識に至ると戻り、それ以上前に進めなくなるのです。他の支分を観行する際には、このような戻る現象はありません。 

識支を観行するこの段階で、阿頼耶識と名色が互いに縁となる道理が示されるため「転還」と呼び、名色へ戻ってそれ以上前行（行支）を観じ得なくなります。阿頼耶識が名色の源流であり、既に究極点に達しているからです。ここから、阿頼耶識が名色を生じ、名色が阿頼耶識に由来することが分かります。縁起法の還滅品において、名色は後世に生じる六識が滅する因ではなく、この故に名色を越えて更に観察を進めます。六識が滅する因は意根の行が滅することにあり、意根の行が滅する因は意根の無明が滅することにあります。 

逆観十二因縁法において名色を観ずる時、二つの観察道が分岐します。一つは名色から六識を観じ、もう一つは名色からその源である阿頼耶識を観察します。まず老死支を観じ、老死が生じるのは「生」があるためと知り、更に「生」を観じれば「有」が原因と分かり、「有」を観じれば「取」が原因と分かり、「取」を観じれば「愛」が原因と分かり、「愛」を観じれば「受」が原因と分かり、「受」を観じれば「触」が原因と分かり、「触」を観じれば「六入」が原因と分かり、「六入」を観じれば「名色」が原因と分かります。 

名色に至ると極めて重要です。名色の前には六識と阿頼耶識があります。六識は後世の名色生起の縁となります。六識の身口意の造業が業種を残し、後世の受報を招くからです。しかし具体的な名色の生起自体は六識からではなく、六識が滅した後、母胎中で阿頼耶識によって受生されるのです。故に名色生起の根本因を観察すれば、阿頼耶識が名色を生じることが分かり、それ以上前に進めなくなります。阿頼耶識以前に縁となる法は存在せず、阿頼耶識が因縁法ではなく、生滅しない本有の識心であることが示されるのです。