飲酒の喩え
原文:復た大王よ。譬えば人が有り。睡眠中に自ら其の身が酒を飲み昏酔するを見、善法及び諸々の悪行を識らず。功徳と過失とを全く覚知せず。此の人が覚めた後、夢中の事を憶念して、実に然りやと。王曰く、然らず。
釈:仏は説かれた「更に一つの夢を挙げましょう、大王よ。譬えばある人が夢の中で、自分が酒を飲んだ後泥酔する様子を見、善法も悪法も弁えず、行いの功徳や過失も全く知りません。この人が目覚めた後、心の中で絶えず夢の中の出来事を思い巡らします。夢の中の出来事は真実でしょうか?」浄飯王は「真実ではありません」と答えました。
原文:仏言わく、大王よ。意に於いて如何。是の人の夢に執着して真実と為すは、是れ智者か。王曰く、然らず世尊よ。何を以って故に。夢中には畢竟、酒を飲む者無し。況んや昏酔することをや。当に知るべし、是の人は徒らに自らを労して、全く実無し。
釈:仏は説かれた「大王よ、どう思われますか。この人が自分が見た夢を実在するものと執着することは、智慧ある者の行いでしょうか?」浄飯王は「この人に智慧はありません、世尊よ。何故そう言えるのでしょうか。夢の中にはそもそも酒を飲む者など存在せず、ましてや酔うことなどありえません。この人が絶えず思い続けることは、ただ無駄に自らの心を疲れさせるだけで、実際の出来事ではないのです」と答えました。
0
+1