無生の理を証することは業を消すことができる

衆生は人間界において仏法を修学しやすい。人間界は苦楽相伴う故、苦を知って初めて修行ができる。苦のみでは修行できず、楽のみでも修行できない。苦楽相半ばする故に修行が可能となる。それ故に世尊は人間界に来て成仏されたのである。天人は享楽に忙しく修行の心なく、畜生道の衆生は愚痴で言語を解せず修行できず、餓鬼は福徳なく飢えに苦しみ修行できず、地獄の衆生は苦痛に心識暗く修行の心無し。俗に言う「富貴なれば仏法を学び難く、貧窮なれば布施し難し」、共に修行困難なり。地獄の衆生は苦受が心識を昏倒させず、尚思考能力あれば、宿命通を得て前世の業行を知り、道理を解する者は前世の行いを悔い、解せざる者は懺悔を知らぬ。

仏法を学ぶ者と学ばざる者の地獄に堕ちる業報は異なり、福ある者と無き者の地獄果報も異なる。道理を明らかにするほど速やかに脱出する。或る者が地獄の門前で華厳経の偈「若人欲了知三世一切仏　応観法界性一切唯心造」を一念すれば、地獄も自心の造りしものと知り、地獄より出で、地獄相は其の心中に消滅す。故に法を解し理を明らかにするは甚だ良し。五陰虚妄の理を証得すれば三縛結断じ、三悪道の業滅す。我無くんば何ぞ三悪道あらん。何ぞ三悪道の業あらん。全て虚妄なり、かく業を消すは何と善きことか。

大涅槃経に、世尊が阿闍世王の業を消すため「父とは何ぞや。父の五陰は父に非ず。一陰のみは父に非ず。和合しても父に非ず。父という法無く、父という人無く、阿闍世王という人も無し。父を殺す業も虚妄実ならず」と説き給う。阿闍世王この理を聞き、未だ阿羅漢果を証せずとも地獄業消え、再び地獄に堕ちず。

大乗法の業消滅もまた殊勝なり。勇施菩薩が重罪を犯して無生を悟る故事あり。勇施比丘が女施主の家に托鉢せんとし、女は彼を慕い非法を求めしが、比丘従わず。女は飯に幻覚剤を入れ食わしめ、比丘自らを制せずして非法を行い、その後往来するに至る。女の夫知りて怒る。比丘は女に毒殺を教え、夫毒殺さる。勇施これを知り大いに悔い、二つの大罪を犯し必ず地獄に堕つべきと知り、心を失い狂乱して文殊菩薩を尋ぬ。文殊「世尊に委ねよ」と。世尊は事の次第を問い無生の理を説き、一切の虚妄を分析し給う。勇施これを聞き大乗無生の理を悟り菩薩となる。三悪道の業も消え地獄の苦を受けず。これは実相懺悔法に等しく、実相法中に人我無く、犯者も被害者も無く、造業の事も無し。誰が業を造る者ぞ。無し！　これらの法を細心に思惟すれば慧眼開け無生を証得せん。