諸法無我（一）

法とは、世間を超越した存在および理念であり、七識心によって認識され、知覚され、覚受され、分別される対象であります。一つの理体、道理、意涵を含みます。法には実法と虚法、真法と仮法、縁生法と非縁生法、有為法と無為法、四大から成る物質的色法、概念理念的な非四大組成の心法、宇宙虚空十方無量無辺の諸仏世界の如き大いなる法から肉眼に見えぬ微細な法まで存在します。愚痴なる三悪道の衆生も感知できる法から、仏の無辺智・無等等智のみが了知し得る法まであります。

これらの法のうち、諸仏の無垢識真如大円鏡智のみが真実永恒の我性を具えた法であり、その他一切は無我性であります。よって衆生にとっては、諸法皆無我であります。我とは真実なるもの、非縁生的なるもの、生滅せざるもの、不変易なるもの、苦なきもの、清浄無垢なるもの、断滅せざるもの、すなわち常・楽・我・浄の体性を具えるものであり、これらの体性を有さぬ法は全て無我法であります。

衆生の第八識は真我真心であり生滅しませんが、なお七識の染汚種子が生滅変易しているため、完全なる我とは言えません。第八識は自らを認知する能力を持たず、自己の存在を知らず、我見がないゆえに無我性であります。意根や意識心のように常に自我の存在を感知し、我・我・我と自己に執着し、問題を考える際まず自己を優先し、「私が如何に」「私は如何なるものか」と無意識に自己を顕示し、他者に自己を認知させ、重視させ、称賛させようとするのとは異なります。

第八識には私心がなく、自己の存在を知りません。故に自らを考慮し打算することなく、ましてや衆生に自己を理解させ重視させんと売り込むこともなく、衆生と利益・是非・優劣を争うこともありません。このような心こそ無我性の心であります。第八識は何事にも主とならず、完全に縁に随い、心に一法も執着しません。これに対し七識心は貪瞋痴慢疑邪見の煩悩を具え、普遍的に一切の法を計度執着し、時処々にわたり事事に主となり、強烈な自我性を有するのであります。