瑜伽師地論選講

また、三種類の有情が存在する。欲を根本として行為をなす方便である。第一は勝れたる欲を得んとするため、第二は勝れたる自体を得んとするため、第三は勝れたる解脱道を証得せんとするためである。

釈：さらに三種の衆生が、欲求を根本的出発点とし、様々な方法を採って修行し、解脱を目指す。第一の欲は、最殊勝なる果報を得るため、大乗菩薩果を証得し仏道を成就せんとするもので、これに比類するものなく、無上法と呼ばれ、その果報は無上果である。

第二の欲は、より勝れた五欲の楽しみと大いなる福報を得んとするもので、結果として天界に生まれ福を享けるが、福尽きれば再び堕ちる。色身の果報は天人の色身と生存境界を得るも、結局は輪廻の繋縛に留まる。

第三の欲は、修行を通じて三界を出離する勝れた解脱の果報を得んとするもので、結果として三界を出離し一時的な解脱を得るが、仏の究竟なる解脱を成就することはできない。

欲は輪廻の因であるが、大乗成仏法への追求は無余涅槃に入らず、永遠に三界において有情を広く利益することを導く。六識に欲あり、意根にはさらに欲あり、主として意根の欲によって輪廻は断絶せず、生死は止まない。

もし単に六識に欲あり、意根に欲なければ、六識の欲も作用せず、生じた瞬間に滅し、生死も必ず終わる。もし単に六識が欲を断ち、意根が欲を断たなければ、意根は必ず欲求を主とし、六識は貪欲の業を造り、生死は終わらず、輪廻は止まない。

意根が三界に欲求を有すれば、必ず三界への貪愛を断じえず、三界を出離できない。阿羅漢は意根の我執を断じるゆえ、三界への貪愛、すなわち三界への欲求を断じ、三界を出離し無余涅槃に入る。もし大乗に回心した阿羅漢は、大乗法への愛楽心が生じ、大乗法への欲求を有するため、意根がこの欲求に繋がれ、命終すれば必ず無余涅槃に入らず、欲界色身五蘊を有して大乗法を修学し、明心見性と成仏を求める。これが通教菩薩の善法欲である。

もし単に意識に善法欲あり、意根になければ、意根は善法欲に繋がれず、三界法に欲求なく、命終すれば必ず無余涅槃を取る。

意根が飲食欲を断じれば、意識が欲界の美食に対し多く意を用いても、意根は貪欲を生ぜず、美食を貪ることもなく、ただ縁に随う。意根が男女欲を断じれば、意識が異性を多く見ても、後の心行なく、意根が主となり攀縁せず貪欲せぬゆえ、意識は余計な心思欲求を生ぜず。意根が貪欲を断じ、衣食住に貪らなければ、意識が豪華な生活環境に遇うも貪らず、衣食住の行いは依然として従前の習性に沿う。これが意根の習性であり、衣食住の身口意行は意根が主となり、必ず意根の習性に符合する。

成仏を求めるは即ち勝欲、明心見性を求めるは即ち勝欲、我見を断ち解脱果を証するは即ち勝欲。もし単に意識にこの勝欲あり、意根になければ、意根は主として精進修行せず、三無漏学を自ら修めず、持戒せず、禅定修せず、経典を読み思惟せず、ましてや観行を起こし法義を参究せず、同様に朝暮に修行に念々在ることもない。意根に勝欲あればこそ、六識を促して修行せしめ、意識をして念々に仏法修行に在らしめ、意識に一切の妨げを排除する方法を考えさせ、精進修行せしめる。

仏法を学んだ後、意識は肉食への貪欲を降伏し、食肉が衆生と悪縁を結び因果あるを知るも、意根は肉食への貪欲を降伏せず、肉食に遇えば、意識は食べられぬと知り、意根は少し食べたいと思い、意識が意根を諭し「肉を食すべからず、菜食すべし」と言えば、意根は暫く耐える。しかし意識が諭さぬ時、注意を逸らせば、意根は一口食って喉を潤すと決め、遂に肉を一口食う。意識が意根に随順し警戒を緩めれば、意根は再び一口食うと決める。意識が意根を責めなければ、意根は自らを放縁し、止むことなく食い続け、遂に意識は意根を制御できず、結局食うこととなる。禁煙失敗もこの理、賭博・薬物禁止失敗も皆この理、意識は実に意根を管轄できず、意根の習慣は意識の理性を遥かに超え、遂に意識は意根に従う。

故に意識のみの修行、意識のみの煩悩断絶は真の煩悩断絶にあらず。意識の我見断絶、意根の我見不断は真の我見断絶にあらず。意識の理明らかなり、意根の理明らかでなければ真の理明らかならず。一本足で歩けぬ如く、意識と意根の両足は必ず同期し、あるいは前後して従い、初めて良く歩める。

心善に向かう者、ほとんど全ての者が意識による意根への導きと諭しを経験する。意根は思惟できず善悪を知らぬゆえ、意識に多く働きかけさせ、意根を善に導く必要あり、その後身口意行は善となる。意根の主導的決定権、この一点のみをもって意根の強大なる機能作用が明らかとなる。種々の事例を見るに、意根に希求なく欲なければ、一切成立せず、皆消失し、必ず無余涅槃に在る。