四正勤の修行（七）

瑜伽師地論第二十九巻（七）

原文：此の如き四種は、亦た正勝と名づく。謂わく、黒品の諸法に於いて、未だ生ぜざるものは、生ぜしめざらんが為、已に生じたるものは、断滅せしめんが為に、欲を生じ策励し、勤精進を発し、心を策し心を持つ。是れ二の正勝なり。白品の諸法に於いて、未だ生ぜざるものは、生ぜしめんが為、前に黒品に広説した如く、知るべし是れ二の正勝なり。

釈：上記四種の修習方法は、四正勝と称される。黒品の煩悩の法について、未だ生起していないものを生起させないようにし、既に生じたものを断滅させる為に、欲求と激励を生じ、勤勉精進の心を起こし、心を奮い立たせ保つ。これが二種の正勝である。白品の諸善法について、未だ生じていないものを生起させ、既に生じたものを堅固に保持し円満ならしめる為に、願望と激励を生じ、精進修行を発心し、心を奮い立たせ堅持する。これもまた二種の正勝である。

勤とは勤勉精進の意、勝とは心の優越、即ち精進の意、正とは方向と方法の正確無謬を指す。正しい方向に精進することを正精進と云い、絶えず目標に向かって進む。逆に誤った方向で精進すれば邪精進となり、精進すればする程目標から遠ざかる。仏道修行に励む多くの者が邪精進に陥り、修行の目標と原理を明らかにせず、ただ盲目的に努力する。勇猛ではあるが智慧を欠いている。

原文：此の如き四種は亦た正断と名づく。一に律儀断と名づく。謂わく、已に生じたる悪不善法を断ぜんが為、欲を生じ策励し、乃至広説する如し。二に断断と名づく。謂わく、未だ生ぜざる悪不善法を生ぜざらしめんが為、欲を生じ策励し、乃至広説する如し。已に生じたる悪不善の事に由り、応に律儀を修して其の断滅を令し、忍受すべからず。此の因縁に由り、名づけて律儀断と為す。其の未だ生ぜざる悪不善の事に於いて、彼の現行せざらしめんが為に断じ、現前せざらしめんが為に断じ、断ずるが故に断ず。故に断断と名づく。

釈：此の四正勝は四正断とも称される。第一は身口意の作る律儀断であり、既に生起した悪不善法を断じる為に欲求と激励を生じる。第二は断断であり、未だ生起していない悪不善法が生起しない様に欲求と激励を生じる。既に生じた悪不善法については身口意の律儀を修し、これを断除すべきで、悪不善法に耐えるべきではない。これを律儀断と云う。未だ生じていない悪不善法について、その現行を阻止し現前を防ぐ為に断ずる。断ずるが故に断断と名付ける。

原文：三に修断と名づく。謂わく、未だ生ぜざる一切の善法を生ぜしめんが為、広説するが如く乃至心を策し心を持つ。善法を数修数習するに由り、先所未だ得ざるを能く現前せしめ、能く断ずる所有らしむ。故に修断と名づく。四に防護断と名づく。謂わく、已に生じたる一切の善法を住せしめんが為、広説するが如く乃至心を策し心を持つ。已に得たる已に現在前に在る諸善法中に於いて、放逸を遠離し不放逸を修し、能く善法をして住忘失せず修習円満ならしめ、防護已生の所有の善法は能く断ずる所有らしむが故に、名づけて防護断と為す。

釈：第三は修断であり、未だ生じていない善法を生起させる為に心を奮い立たせ保つ。善法を繰り返し修習する事により、従来得られなかった善法を現前させ、悪不善法を断じ得る。これを修断と云う。第四は防護断であり、既に生じた善法を保持する為に心を奮い立たせ保つ。既に獲得し現前した諸善法において放逸を離れ不放逸を修し、善法を保持し忘失せず修習を円満ならしめ、防護が生じる。全ての善法は悪不善法を断じ得る故に防護断と称される。

防護とは悪不善法の出現を防ぐことである。心中に善法があれば悪不善法は現れない。善悪は同時に現れ得ぬ故、善法は防護の役割を果たす。善法が堅固となれば悪不善業を造作せず、これは長期にわたる善法修習の結果である。四正勤は初期修行の助道法であり、見道の必要条件である。故に見道の者は相応する粗重な煩悩を断じ、心中の善法は堅固で悪不善法は容易に現前しない。

四正勤を修了しても命終までに見道に至らぬ場合、心が変化した故に来世の悪報は軽微となるが、善法の退転と悪不善法の再現を完全には防げぬ。業縁により悪環境に染まる可能性はあるが、善法の基盤があれば再び善縁に遇えば善法は速やかに生起する。見道後に至って初めて善法は保持され、不断に堅固化し増長し円満する。