善現啓請分第二
原文:時に、長老須菩提、大衆の中に在りて即ち座より起ち、右肩を偏袒し、右膝を地に着け、合掌恭敬して仏に白して言く、「希有なり世尊。如来は諸菩薩を善く護念し、諸菩薩を善く付嘱したまう。世尊よ、善男子善女人、阿耨多羅三藐三菩提心を発して、云何に応じて住し、云何にして其の心を降伏すべきか」。仏言わく、「善き哉善き哉、須菩提よ。汝の説く如し。如来は諸菩薩を善く護念し、諸菩薩を善く付嘱せり。汝今諦聴せよ、当に汝が為に説かん。善男子善女人、阿耨多羅三藐三菩提心を発しては、応に是の如く住し、是の如く其の心を降伏すべし」。唯然として世尊、「願わくは楽欲して聞かん」。
釈:須菩提は即ち善現なり、釈迦仏の弟子中に空を解する第一人者なり。母胎の中に在りて即ち万法空寂なることを知れり、これは前世多劫に積みし深厚なる善根による。彼の入胎・住胎・出胎も迷わず倒れず、生まれ出でたる時、家中の財宝皆空しく消失せしが、一切皆空なることを示せり。数日後に再び自ら現れ出でたり。須菩提を長老と称するは、大衆中に威望ある人、徳ある人、三毒煩悩に相応せざる人を指す。須菩提は小乗の空法を修して阿羅漢果を証得しつつ、世尊が大般若経を説く時に大乗に回心し菩薩道を歩めり。仏が経を説く時は常に何らかの因縁を縁として引き出し、一経典を説き出さる。稀に啓請無くして経を説くことなし、特に重要なる場合を除き、この経は須菩提の啓請によるものなり。
世尊は食事を終え跏趺坐を結ばれたる直後、須菩提は即ち大衆中より座を立ち合掌して仏に問う、「希有なる世尊、如来は諸菩薩を善く護念し、諸菩薩を善く付嘱したまう。世尊よ、善男子善女人が阿耨多羅三藐三菩提心を発するに当たり、如何に住し、如何に其の心を降伏すべきか」。須菩提は初めに世尊を讃歎せり、世間最も希有なる、得難き聖人なりと。世尊は真に希有なり、一つの三千大千世界にただ一仏のみ存在す。一つの日月天は四大海の下なる地獄より地球、須弥山を経て欲界六層天に至るを一小世界と為し、千の小世界に色界初禅天を加えて小千世界と為し、千の小千世界に色界二禅天を加えて中千世界と為し、千の中千世界に色界三禅以上の天界を加えて大千世界と為す。これ程の大世界にただ一仏のみ存在し、且つ形を留めて世に住する時は極めて短く、前後二仏の相隔る時は長し。釈迦仏と弥勒仏の間は最も短く56億7千万年なり。相隔る時長き場合、数多の大劫を経ても仏出世無きこと多く、更に久遠に亘りても仏出世無きことあり。これにより世尊の真に希有難遇なるを知るべし。
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