父子合集経選講（五八）

原文：仏は王に告げました。「耳で悪声を聞けば、憂い悩みが生じます。あたかも人が夢の中で、最愛の人と別離し、悲しみ号泣して大いなる苦悩を生ずるがごとし。いかが思われますか。この人が目覚めた後、夢の中の事を思い出しても、それは実在するでしょうか」王は答えました。「いいえ、実在しません」仏は言いました。「王よ、この人が夢を見たことを実体と執着するのは、智者と言えるでしょうか」王は答えました。「いいえ、世尊。なぜならば、夢の中の親愛は畢竟存在せず、ましてや別離の事実などありえません。知るべきです、この人は徒らに自らを疲労させ、実体なきものに心を砕いていることを」

釈：仏は説きました。「大王よ、悪声を耳にすると心に憂悲苦悩が生じる者がいます。あたかも人が夢の中で最も親しい者との生死別離を見て悲嘆に暮れ、心に甚大な苦悩を抱くが如くです。この者についてどう思われますか。目覚めた後も夢の出来事を追想し続けるなら、その夢は実在するでしょうか」浄飯王は答えました。「実在しません」

仏は続けました。「大王よ、自ら見た夢を実体と執着する者は、智慧ある者と言えましょうか」浄飯王は答えました。「その者に智慧はありません、世尊。なぜなら夢の中の親族は畢竟存在せず、ましてや別離の事実などさらに実在し得ないからです。この者は実体なき人や事柄に心を費やし、徒労に終わり、何の益もないことが明らかです」