阿難よ、もし菩薩摩訶薩が自らの所有する功徳善根を恃み、他の菩薩摩訶薩の衆を軽んじ、このように言うならば、すなわち『私は布施・浄戒・安忍・精進・静慮・般若波羅蜜多を修習することができるが、汝らはできない!
私は内空・外空・内外空・空空・大空・勝義空・有為空・無為空・畢竟空・無際空・散空・無変異空・本性空・自相空・共相空・一切法空・不可得空・無性空・自性空・無性自性空に安住することができるが、汝らはできない!
私は真如・法界・法性・不虚妄性・不変異性・平等性・離生性・法定・法住・実際・虚空界・不思議界に安住することができるが、汝らはできない!
私は苦集滅道の聖諦に安住することができるが、汝らはできない!
私は四静慮・四無量・四無色定を修習することができるが、汝らはできない!
私は八解脱・八勝処・九次第定・十遍処を修習することができるが、汝らはできない!
私は四念住・四正断・四神足・五根・五力・七等覚支・八聖道支を修習することができるが、汝らはできない!
私は空・無相・無願の解脱門を修習することができるが、汝らはできない!
私は菩薩の十地を修習することができるが、汝らはできない!
私は仏土を厳浄にし、有情を成熟させることができるが、汝らはできない!
私は順逆に十二縁起を観察することができるが、汝らはできない!
私は五眼・六神通を修習することができるが、汝らはできない!
私は仏十力・四無所畏・四無礙解・大慈大悲大喜大捨・十八仏不共法を修習することができるが、汝らはできない!
私は奢摩他・毘鉢舎那を修習することができるが、汝らはできない!
私は無忘失法を修習し、恒に捨性に住することができるが、汝らはできない!
私は陀羅尼門・三摩地門を修習することができるが、汝らはできない!
私は一切智・道相智・一切相智を修習することができるが、汝らはできない!
私は諸法の自相共相を観察することができるが、汝らはできない!
私は一切の菩薩摩訶薩行を修習することができるが、汝らはできない!
私は諸仏の無上正等菩提を修習することができるが、汝らはできない!
その時、魔羅は歓喜踊躍して言う。『この菩薩は我が伴侶なり。生死を輪廻し、出期未だあらざるべし』と。
阿難よ、知るべし。この菩薩摩訶薩が深般若波羅蜜多を行ずる時、すなわち魔羅の擾乱を受く。
もし菩薩摩訶薩が自ら有する功徳善根を恃まず、他の菩薩摩訶薩の衆を軽んぜず、常に精進して諸々の善法を修めながらも、諸々の善法の相に執着しないならば、阿難よ、知るべし。この菩薩摩訶薩が深般若波羅蜜多を行ずる時、魔羅の擾乱を受けない。
また、阿難よ、もし菩薩摩訶薩が自らの名姓を恃み、衆に識知されることを以て、他の善を修める菩薩を軽蔑し、常に己が徳を賛嘆して他人を毀呰し、実には不退転の菩薩摩訶薩の諸行状相を持たないのに実有と謂い、諸々の煩悩を起こして自らを賛嘆し他を毀り、言うならば、『汝らに菩薩の名姓無く、唯だ我のみが菩薩の名姓を有つ』と。増上慢によって諸々の他の菩薩摩訶薩の衆を軽蔑毀呰するならば、
その時、魔羅はこの事を見て、すなわちこのように念う。『今この菩薩は我が国土の宮殿を空しくせず、地獄・傍生・鬼界を増益せしむ』と。
この時、魔羅はその神力を助け、転じて威勢弁才を増益せしむ。これにより多くの人々はその言葉を信受する。この因縁によって彼の悪見に同様に勧発せしめられる。彼の見に同じくした後は、彼の邪学に随う。彼の学に随った後は、煩悩熾盛となり、心が顛倒するが故に、諸々の発起する身語意業は、皆感得して愛楽すべからざる衰損苦果を得る。この因縁によって三悪趣を増し、魔の宮殿国土を充滿せしむ。これにより魔羅は歓喜踊躍し、諸々の為すところのものは意のまま自在である。
阿難よ、知るべし。この菩薩摩訶薩が深般若波羅蜜多を行ずる時、すなわち魔羅の擾乱を受く。
もし菩薩摩訶薩が自ら有する虚妄の名姓を恃まず、諸々の他の善を修める菩薩を軽蔑せず、諸々の功徳に於いて増上慢無く、常に自らを賛嘆せず、また他を毀らず、能く善く衆魔の事業を覚知するならば、阿難よ、知るべし。この菩薩摩訶薩が深般若波羅蜜多を行ずる時、魔羅の擾乱を受けない。
また、阿難よ、もし菩薩摩訶薩が声聞・独覚乗を求める者と互いに毀辱し、闘諍誹謗するならば、その時、魔羅はこの事を見てこのように作す。『この善男子は無上正等菩提を遠く離れ、地獄・傍生・鬼界に親近す』と。
何が故か。互いに毀辱し、闘諍誹謗することは菩提道に非ず。ただ地獄・傍生・鬼界の諸悪趣の道のみである。この念いをなした後、歓喜踊躍す。阿難よ、知るべし。この菩薩摩訶薩が深般若波羅蜜多を行ずる時、すなわち魔羅の擾乱を受く。
もし菩薩摩訶薩が声聞・独覚乗を求める者と互いに毀辱せず、闘諍誹謗せず、方便をもって化導し、大乗に趣かしめ、或いは自乗の善法を勤修せしめるならば、阿難よ、知るべし。この菩薩摩訶薩が深般若波羅蜜多を行ずる時、魔羅の擾乱を受けない。
また、阿難よ、もし菩薩摩訶薩が無上正等菩提を求める諸々の善男子・善女人等と互いに毀辱し、闘諍誹謗するならば、その時、魔羅はこの事を見てこのように作す。『この二菩薩は倶に無上正等菩提を遠く離れ、倶に地獄・傍生・鬼界に親近す。何が故か。互いに毀辱し、闘諍誹謗することは菩提道に非ず。ただ地獄・傍生・鬼界の諸悪趣の道のみである』と。この念いをなした後、歓喜踊躍す。阿難よ、知るべし。この菩薩摩訶薩が深般若波羅蜜多を行ずる時、すなわち魔羅の擾乱を受く。
もし菩薩摩訶薩が無上正等菩提を求める諸々の善男子・善女人等と互いに毀辱せず、闘諍誹謗せず、更に互いに教誨し、善法を勤修して、疾く一切智智を証得せしめるならば、阿難よ、知るべし。この菩薩摩訶薩が深般若波羅蜜多を行ずる時、魔羅の擾乱を受けない。
阿難よ、知るべし。もし菩薩摩訶薩が未だ無上正等菩提の不退転記を得ずして、無上正等菩提の不退転記を得たる諸菩薩の所に於いて、損害心を起こし、闘諍毀辱し、軽蔑誹謗するならば、この菩薩摩訶薩は起こす所の念いの数だけ不饒益心に随い、還ってその劫数だけ曾て修めた勝行を退転し、その時分だけ善友を遠離せしめられ、還ってその生死の繋縛を受く。もし大菩提心を棄捨せざれば、還ってその劫数だけ勝行を勤修し、然る後に初めて退けたる功徳を補う。
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