座禅三昧経講義
第一章 無常を宣べて精進を勧む
原文:導師説く難遇と 聞く者喜ぶも亦た難し
大人の楽んで聴く所 小人の悪みて聞く所
衆生は愍傷す可し 老死の険路に墜つ
野人の恩愛の奴 畏るべき処に処りて痴にして懼れず
世界若し大なり小なりと雖も 法に常なる者無し
一切は久しく留まらず 暫く現れて電光の如し
是の身は老死に属す 衆病の帰する所
薄皮は不浄を覆う 愚惑、為に所欺かる
汝は常に老賊と為り 盛壮の色を吞み滅す
華鬘の枯れて朽つるが如く 毀ち敗れて直る所無し
釈:三界の大導師である釈迦牟尼仏は説かれた、この坐禅三昧経は値い遇い難く、聞き難いものであると。この経を聞く者が歓喜の心を生じることも極めて難しい。大いなる心を発して無上仏道を趣き求める人々は喜んで聞こうとするが、心量が狭く無上菩提を求めようとしない人々は聞こうとしない。衆生は非常に憐れみ哀れむべき存在であり、生老病死の険しい道に墜ち、生死の曠野における恩愛の奴隷となり、恐るべき場所にいながらも恐懼を覚えない。世界が大きかろうと小さかろうと、世の一切の法には常に存続するものはなく、一切の法は久しく留まらず、暫く現れては電光のように速やかに消え去る。
この無常の色身は生老病死一切の煩悩の集まるところであり、薄い皮膚は汚れた不浄のものを覆っている。愚痴な者はこのような不浄の色身に欺かれるのである。あなた方は常に老いの賊によって健康で盛んな身体を奪われてしまう。それは花の蔓が枯れ朽ちて壊れてしまい、何の価値も無くなるようなものである。
原文:頂生王の功德 帝釈天王と共に坐す
報利福弘大にして多し 今日悉く安く在るか
此の王は天人中に 欲楽の具、最たるを為す
死時の苦痛極まり無し 此をもって以て意を悟る可し
諸欲は初め柔らかく楽しく 後には皆大苦と成る
亦た怨みの初め善きが如く 族を滅す禍は後に在り
是の身は穢れたる器と為す 九孔常に悪を流す
亦た那利瘡の如く 医薬を以て治するを絶つ
骨車の力甚だ少なく 筋脈、識を纏いて転ず
汝は以て妙乗と為す 忍びて羞耻無きに着す
死人の聚まる所 委棄されて塳間に満つ
生時に保ち惜しむ所 死すれば則ち皆棄て捐てらる
釈:昔、頂生転輪聖王は四天下を統治した後、天に昇り欲界天主である帝釈天(釈提桓因)と共に一座に坐し、天界を分かち治めた。その果報は殊勝で福徳は広大であったが、今、彼はどこにいるのか?この頂生王は人天の中で娯楽の資具が最も勝れていたが、死の時は極度の苦痛にあった。ここから一つの道理を悟るべきである。一切の世間の五欲の楽しみは最初は快適で楽しいかもしれないが、後には全てが極めて大きな苦しみとなる。それはあたかも怨家が遭遇した時、最初は皆和やかであるが、九族を滅ぼす禍がすぐ後に迫っているようなものである。
この五陰の色身は汚れた物で満ちた器であり、九つの孔からは常に悪露(不浄物)が流れ出る。それはまた悪性の腫物のようで、もはや治療する医薬も無い。骨で作られた車はその牽引力が小さすぎる。筋や脈が絡みついて幾つかの識心がこうして運転されている。あなた方は皆これを非常に素晴らしい御車と思い込み、いつまでも苦しみに耐えながら全く恥じることもなく、最後には死者が集まる荒野の墓場に捨てられてしまう。生きている間はあらゆる手を尽くして保護し愛惜するが、死んでしまえば全てが捨て去られてしまうのである。
原文:常に当に是の如く念うべし 一心に観じて乱るる莫れ
痴倒の黒き闇を破り 炬を執りて以て明らかに観よ
若し四念処を捨てば 心に悪しきを作らざる無し
鉤無き象の逸るるが如く 終に調いの道に順わず
今日は此の業を営み 明日は彼の事を作る
楽着して苦を観ぜず 死賊の至るを覚えず
匆匆として己が務めの為に 他事も亦た閑ならず
死賊は時を待たず 至れば則ち脱する縁無し
鹿の泉に赴くが如く 已に飲みて方に水に向かう
猟師は慈恵無く 飲み竟わるを聽ずして殺す
痴人も亦た是の如し 勤めて諸の事務を修す
死の至るは時を待たず 誰か当に汝が為に護らん
釈:あなた方は常にこのような念いを持つべきである。専心一意にこの法を観行し、心を散らしてはならない。必ず愚痴迷妄の暗黒を破り、智慧の松明を手に執って明らかな眼で観察しなければならない。もし四念処の止観修行を捨て離れるならば、心は悪を作らないことは無くなる。それはあたかも鉤鎖の無い象が放逸に振る舞い、調教師の指し示す道に従うことができないようなものである。今日はこうしたことを行い、明日はああしたことを営み、なす事に耽溺してその中の苦しみを観察せず、知らず知らずのうちに死の賊が到来するのである。
一生の間、せわしく自分の事業を営み、他のことにも同じく心を砕き労力を費やす。しかし死の賊は時節を待たず、訪れた時にはもう逃れる機会は無くなってしまう。あたかも野鹿が喉の渇きを癒そうと泉に赴き、今まさに見つけた水を飲んでいる最中に、猟師が全く慈悲の心も恩恵の心も無く、鹿が水を飲み終わるのを待たずに殺してしまうようなものである。愚かな人々もまた同じで、精勤して諸々の事業を造作するが、死が訪れる時は時機を選ばない。その時、一体誰があなた方を守ってくれるというのか。
原文:人心は富貴を期す 五欲の情未だ満たされず
諸の大国王輩 此の患を免るるを得ず
仙人の持つ咒箭 亦た死生を免れず
無常の大象踏む 蟻塚と地とを同じくす
且つ一切の人を置く 諸仏の正真覚
生死の流れを越度す 亦た復た常に在らず
是をもって故に知るべし 汝の愛し楽しむ所
悉く応に早く捨離すべし 一心に涅槃を求めよ
後に身を捨て死する時 誰か当に証知せん我が
復た法の宝に遇うことを得るや 及び以て遇わざる者を
釈:人の心は皆、大富大貴を得ることを望み、衆生は五欲への貪着の情が永遠に満足することを知らない。全ての大国王たちは、この生死の過患を免れることができない。山中の長寿の仙人たちは、咒文を加持した宝剣を持って功を練り道を修めても、生生死死の事から免れることはできない。一旦無常の大いなる象が一歩踏み込んで来れば、衆生は皆蟻のように地面に貼り付いてしまう。普通の人々はさておき、諸仏は既に無上正等覚を成じ、生死の流れを超越しているが、それでもやはり世間には常住しない。それ故にあなた方は知るべきである。あなた方が愛し楽しむ全ての人や物事は、早く捨て離すべきであり、一心に涅槃の楽しみを求めよ。最後に身を捨て死ぬ時、誰が私が仏法の宝に出会ったのか、それとも出会わなかったのかを知るというのか。
原文:久しくして仏日出ず 大いなる無明の闇を破る
以て諸の光明を放ち 人に道と非道とを示す
我は何れの所より来れるか 何れの処よりか生ずる
何れの処に解脱を得ん 此の疑い誰か当に明らかにせん
仏聖の一切智 久しく違いて乃ち出世す
一心に放逸すること莫れ 能く汝が疑結を破らん
彼は実利を楽しまず 弊悪の心に好み着す
汝は衆生の長と為り 当に実法の相を求めん
誰か能く死する時を知らん 趣く所何れの道よりか
譬えば風中の灯の如く 滅する時節を知らず
至道の法は難からず 大聖は事を指して説く
智及び智処を説く 此の二つは外を仮らず
釈:久遠の時劫を経てようやく一尊の仏が世に出て、世間の巨大な無明の闇を破り、衆生のために智慧の大いなる光明の宝蔵を放ち、衆生に何が正道で何が非道であるかを示される。すると衆生は心に疑問を生じる:私はどこから来たのか、どこから生まれたのか、どこで解脱を得られるのか、これらの疑問は誰が私のために解き明かしてくれるのか? 仏は世間の大聖人であり、一切智人である。久遠の時劫を経てようやく世に現れる。あなた方は一心に諦観思惟し心を散らさず、そうすればあなた方の疑いの結び目を解くことができるであろう。
あなた方は過去世において真実の利益を好まず、心行いが卑小で弊悪であった。あなた方は今、衆生の中の長者である。実相の法を追求すべきである。誰が自分が死ぬ時、どの道に生まれ変わるのかを知ることができようか。それはあたかも風の中の孤灯が、いつ消えるか分からないようなものである。菩提の大道に通達する仏法は決して難しいものではない。仏陀という大聖者が既にその道筋を整え、大衆に告げて言うには、智慧を得ること及び智慧が行うところは、心の外に求めるものではないと。
原文:汝若し放逸せず 一心常に道を行わば
久しからずして涅槃を得ん 第一の常楽の処
利智は善人に親しみ 心を尽くして仏法を敬え
穢れ不浄の身を厭離し 苦を離れて解脱を得よ
閑静にして寂志を修め 結跏して林間に坐せ
心を撿めて放逸せず 意を悟りて諸の縁を覚よ
若し有(三界)の中を厭わざれば 安んじて睡り自ら悟らず
世の非常なるを念わず 畏る可くして懼れず
煩悩は深く底無く 生死の海は辺無し
苦を度する舡未だ弁ぜず 安んぞ楽しんで睡眠せん
是をもって当に覚悟すべし 睡りを以て心を覆うこと莫れ
四つの供養の中において 量を知り止足を知れ
釈:もしあなた方が修行において一心に精進して放逸せず、常に専一の心をもって仏道を修行するならば、間もなく大涅槃を証得し、第一の永久の常楽の境地に至ることができるであろう。利根で智慧ある者は善知識に多く親しむべきであり、心を尽くして仏法を恭敬し、汚れ穢れた色身を厭い離れ、苦しみを去って解脱を得よ。悠々自適として静かに修行し、淡泊な志を持ち、常に林の中に結跏趺坐し、自心を収め放逸せず、私の説く法義を体得し、一切の境縁が幻であることを覚るべきである。
心がもし三界の有を厭い離れなければ、心安らかに大いなる眠りにつき、自ら覚ることがなく、世の無常を思わず、恐るべき世界を知っても畏れない。煩悩は深くて底が無く、生死の大海は際限がない。自ら生死の苦海を渡る法船をまだ造り終えていないのに、どうして安んじて睡眠に耽ることができようか。それ故に覚悟すべきであり、もはや睡眠をもって修道の心を覆うことをしてはならない。飲食・衣服・臥具・湯薬の四つの供養においては、分を知り満足することを知り、過分な要求をすべきではない。
原文:大いなる怖れ倶に未だ免れず 当に宜しく勤めて精進すべし
一切の苦の至る時 悔恨も及ぶ所無し
衲衣、樹下に坐し 応に得る所の如く食らえ
味を貪るが故に為す莫れ 而して自ら毀敗を致すこと
食過ぎて味の処を知る 美悪と都て異無し
愛好は憂苦を生ず 是をもって愛を造る莫れ
行業、世界中に 美悪と更に無からざる無し
一切は已に具に受く 当に是を以て自ら抑えよ
釈:生死に対する巨大な恐怖や憂いがまだ免れていない時は、勇猛精進に勤しんで修行すべきである。一切の苦難が皆訪れてからでは、悔やみ恨んでも避けることができなくなる。あなた方は出家衣を着て樹下に端坐し、仏法を思惟し、自らが得るべき飲食に従って食せよ。美味を貪り求めるが故に、自らの道業を壊してはならない。飲食が過ぎれば分かる、一切の味覚対象(味塵)は良し悪しに関わらず差別は無いと。何かを好めば憂い苦しみが生じる。故に貪愛の業を造ってはならない。人は大千世界の中で生活し、良きことも悪しきことも経験したことの無いものは無い。あらゆる事柄を全て経験しているのである。それ故に自心を制御し降伏させ、これ以上貪り求めることをしてはならない。
原文:若し畜獣の中に在れば 草を嚼んで以て具足の味と為す
地獄にては鉄丸を吞み 燃え熱く劇しく迸る鉄
若し薜荔(へいれい:餓鬼)の中に在れば 膿・吐物・火・糞・尿
涕唾の諸の不浄 此れを以て上味と為す
若し天の宮殿に在れば 七宝の宮観の中
天食の蘇陀味 天女を以て心を娯ます
人中の貴き処に務むれば 七種の馔、衆味を備う
一切は曾て更に経たり 今復た何を以てか愛せん
世界中に往返し 厭うに更に苦楽の事
未だ涅槃を得ずと雖も 当に勤めて此の利を求めん
釈:あなた方は過去生において、畜生獣の中に生まれた時は、野草を噛んで最も美しい飲食とした。地獄に生まれた時は、鉄の丸を飲食として吞み、その鉄丸は激しく燃え滾り、火花を散らすほど熱いのに、悪業の故に吞まざるを得なかった。餓鬼(薜荔)に生まれた時は、人間が吐いた膿・痰・猛火・糞便・尿などを最も美味なものとして飲食した。天界の七宝の宮殿に生まれた時は、乳製品の上味な天食甘露などを食し、天女が共に娯楽をもたらした。人間界の富貴な家に生まれた時は、七種の珍味を食し、一切の色・香・美味を具えた。このような種々の一切を、あなた方は既に経験している。今なぜ貪愛のために再び六道を往来し、種々の苦楽の事柄を経験しようとするのか? あなた方は今まだ涅槃の楽しみを証得していない。精勤努力して、この勝れた利益功徳を得ることを求めるべきである。