阿含経十二因縁釈
第一章 雑阿含経第十二巻
第一節 十二因縁生起の因
(二八三)結所繫法より生ずる十二因縁
原文:かくの如く我聞けり。一時、仏は舎衛国祇樹給孤独園に住したまえり。その時、世尊は諸比丘に告げたまわく、もし結に繫がれたる法に随って、味着を生じ、顧念して心を縛すれば、すなわち愛生ず。愛を縁として取あり、取を縁として有あり、有を縁として生あり、生を縁として老病死・憂悲悩苦あり。かくの如くかくの如く、純大苦聚は集まる。
釈:世尊が舎衛国祇樹給孤独園における法会で因縁法を説かれた時、諸比丘たちに告げられた。もし汝らが自心の煩悩結縛に繫がれた法(六塵の境である財・色・名・食・睡など)に対し、繫がれた法に随って愛着心を生じ、常にその結縛の法を念想し、六塵の境に沈淪すれば、心は境の法に牢牢と縛られて解脱を得ず。
煩悩結縛に繫がれた法に味着すれば、愛が生じる。愛を縁として執取が生じ、執取を縁として有(来世の業種)が生じ、有を縁として生(五蘊身)が生じ、生を縁として老病死憂悲悩苦が伴う。かくして無量の生滅大苦が再び集起する。
結とは煩悩の縛り、心を繋ぐ枷である。九つの結(愛結・瞋結・痴結・嫉結・我見結・取結・疑結・吝結・慢結)は三界六道に衆生を縛る。結所繫法とは六塵の境、三界世間法を指す。随生味着とは世俗法に滋味を認め、貪心を満たさんとして顧念を生ずること。顧念とは執着して離れず、常に抓取する心なり。
心縛とは六塵法に繋がれた状態。愛が生じれば執取が起こり、業種を残して来世の三界有を生ず。比丘たる者、結所繫法に味着すれば愛生じ、取・有・生・老病死の苦が集まる。愛を滅すれば心縛解け、三界の繋がりを離れ解脱を得る。
原文:人が木を植えるが如し。初め小さく弱き時、愛護して安穏ならしめ、肥土を施し、時を随って灌漑し、寒暖を調えれば、かかる因縁によって木は成長す。比丘よ、結所繫法を味着し養えば、愛生じ、愛を縁として取あり、取を縁として有あり、有を縁として生あり、生を縁として老病死憂悲悩苦あり。かくの如く純大苦聚は集まる。
釈:若木を育てる如く、煩悩結縛を初期に養えば生死輪廻を深くす。修行者は常に自心を観じ、煩悩を見出だせば直ちに滅すべし。煩悩に順ずる者は輪廻に沈淪す。
原文:もし結所繫法に随順して無常観を修し、生滅観・無欲観・滅観・捨観に住し、顧念せず心縛られざれば、愛滅す。愛滅すれば取滅し、取滅すれば有滅し、有滅すれば生滅し、生滅すれば老病死憂悲悩苦滅す。かくの如く純大苦聚は滅す。
釈:六塵の境に無常生滅を観じ、欲を離れ捨てんとすれば、心縛られず愛滅す。これにより十二因縁の連鎖断じ、生滅の苦より解脱す。
原文:若し木を植えて愛護せず、肥土を施さず、灌漑せず、寒暖を調えざれば、木は成長せず。さらに根を断ち枝を截り、段段に斬り、風に晒し日に炙り、火に焚いて灰となし、疾風に散じ流水に投ずれば、未来世に生ぜざる法となる。比丘ら、然りや。答えて曰く、然り、世尊。
釈:煩悩を若木の如く早期に断截すれば、生滅の苦永く滅す。
原文:かくの如く比丘ら、結所繫法に無常観を修し、生滅を観じ、欲を離れ捨てんとすれば、愛滅し十二因縁の連鎖断じ、純大苦聚滅す。仏はこの経を説き終えられし時、諸比丘歓喜して奉行せり。
釈:一切法は無常なり。縁に随って捨てれば苦悩なく、執取するほどに苦増す。三界有為法を捨て、心縛られざれば解脱自在なり。
(二八四)所取法より生ずる十二因縁
原文:その時、世尊は諸比丘に告げたまわく、もし所取法に随って味着し、顧念して心を縛り、その心駆馳して名色を追えば、名色を縁として六入処あり、六入処を縁として触あり、触を縁として受あり、受を縁として愛あり、愛を縁として取あり、取を縁として有あり、有を縁として生あり、生を縁として老病死憂悲悩苦あり。かくの如く純大苦聚は集まる。
釈:六根が六塵を執取して味着すれば、名色を追い六入・触・受を生じ、愛取有に至る。これ十二因縁の理なり。
原文:大樹の如し。根幹枝葉花果茂り、下根深固に肥土を施し水を灌げば、永劫朽ちず。比丘ら、所取法に味着し心を縛り名色を追えば、十二因縁の輪転起こり、純大苦聚集まる。
釈:煩悩を大樹の如く養育すれば、生死の苦増大す。
原文:もし所取法に無常観を修し、生滅を観じ、欲を離れ捨てんとすれば、識駆馳せず名色滅す。名色滅すれば六入処滅し、触・受・愛・取・有・生・老病死苦次第に滅す。かくの如く純大苦聚滅す。
釈:無常観を修すれば十二支縁起逆観に従い、苦の根源断つ。
原文:若し木を植えて愛護せず、根を断ち枝を截り、火に焚いて灰となせば、未来世に生ぜず。比丘ら、然りや。答えて曰く、然り、世尊。
釈:煩悩の根を断截する方法を説き示す。
原文:かくの如く比丘ら、所取法を観じて無常を覚り、欲を離れ捨てんとすれば、十二因縁の輪転止み、純大苦聚永く滅す。
釈:六塵を取らざれば識駆馳せず、名色より生ずる一切の苦より解脱す。これ仏道修行の要諦なり。